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科研費助成研究(基盤研究(A))

「脱マスメディア時代のポップカルチャー美学に関する基盤研究」

オープン研究会(番外編)

サバイバルのためのメディア──ポピュラーカルチャーの生存圏──

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 電子チケット制による無観客ライブコンサートの有料配信、キャストやスタッフが一度も会わずにリモートで制作される映画、自分が主役のオンラインゲームの世界に友人を招待して執り行う結婚式。これらはすべて、われわれが2020年に初めて目撃した光景である。それらは「失われた現実」の一時的な代替物なのか、それともわれわれが今後順応していくべき「新たな現実」なのか。そうした問いへの答えを宙吊りにしたまま、戸惑いつつ、われわれはそれらを受け入れてきた。いかなるかたちであろうとも、われわれの生活にとってアートやカルチャーは必要不可欠である。それもまた2020年の大きな発見であった。

 人々の接触と移動を厳しく制限する世界は、アートやカルチャーのあり方を根本から変えてしまう。その変化は、制作、流通、受容のすべての過程に及ぶ。そしてその変化の中で、新たな分断と格差が生じている。このジャンルは生き延びる、あのジャンルは滅びる、という単純な話にはならない。音楽なら音楽、映画なら映画、ゲームならゲームという、一つの同じジャンルの中で、「肥え太る」部分と「痩せ細る」部分がはっきり色分けされてくる。その命運を握っているのは、言うまでもなく「メディア」である。

 本シンポジウムでは、メディアの三つの側面であるフォーマット(制作の次元)、プラットフォーム(流通の次元)、インタフェース(受容の次元)にフォーカスして、アートやカルチャーが2020年に不可避的に被った変容の実態を解明する。ポピュラー音楽研究、映画・映像研究、ゲーム・メディア研究を専門とする三人のパネリストを迎え、それぞれのジャンルでの状況と事例と確認・共有したうえで、研究プロジェクトメンバーおよびオーディエンスを交えて議論を行う。

2021年3月7日(日)14:00−18:00 (13時30分開場)

京都大学稲森財団記念館3階中会議室

(住所:京都市左京区吉田下阿達町46)

登壇者:

ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(京都大学/映画・映像研究)

「2020年コロナ禍、映像文化に何がおこったか?」

 昨年8月、京都大学オンライン公開講座「立ち止まって、考える」シリーズの一環として、「コロナが生み出した映像から考える」というタイトルで話をした。そこでは2020年前半に一般公開された長短含む6作品を分析しながら、コロナ禍に制作された「新しい映像」から何が読み取れるかを考察した。
 その時、分析の主軸として二つの質問を掲げた。一つは、「コロナ禍に、どのような映像が実際に作られたのか?」という、同時代の映像作品、特に劇場封鎖に伴い、当時の映像観客にとって唯一アクセス可能であったテレビ画面やコンピューターのモニターといった「小さなスクリーン」に映し出される映像作品を俯瞰することを目的とする質問。もう一つは、「コロナ禍の時期、映像文化はどのように変わったのか、あるいはコロナ収束後、映像文化はどのように変わる可能性があるだろうか?」という、映像文化の変容に着目するものであった。
 今回のポピュラーカルチャー研究会では、「立ち止まって、考える」シリーズでの講義を発展させる形で、その後どういった変化が日本の映像文化に起きたかを見据える。今回の発表では、引き続きこの二つの質問に着目したい。つまり、コロナ禍にどのような映像が現れたかを見極め、コロナ禍によって映像文化がどのように変わったかを、パンデミックが始まって以来一年が過ぎようとしている「今」、改めて考えてみたい。
 時間の制限もあるため今回注目するのは2作品に限定する。まずはNHK番組『ストーリーズ のぞき見ドキュメント 100カメ』シリーズの一作品「緊急事態宣言下のステイホーム」(2020年7月24日、NHK総合)であり、もう一つは、オムニバス映画『緊急事態宣言』(2020、8月28日、アマゾンプライムビデオ配信)の一作である「MAYDAY」(真利子哲也監督)である。

マーティン・ロート(立命館大学/ゲーム・メディア研究)

「デジタルゲーム空間へのエクソダス? 遊びの生存圏の再考察にむけて」

 デジタルゲームはプレイヤーに日常生活とは別の「世界」を提供し、その世界とのインタラクションを体験させる一方で、日常生活を取り込む側面もまたある。
 この複雑な関係はこれまで多くのゲーム研究者や遊び研究者に着目され、マジックサークルや没入という概念を通じて議論されてきた。
 例えば、ゲーム世界の魅力と経済力に着目したCastronovaは、バーチャルワールドへのエクソダス(大移動)を予告した。ゲームにおける達成感に注目したMcGonigalは、日常生活のゲーム化を提案した。一方で、プレイヤー立ちの実践を分析した研究者は、ゲームを労働の一種と捉える者もいる。
 これらの両ベクトルは、ゲームの発展に伴い変化し続けてきたが、もともとデジタルであり、早くからネットワーク技術を展開させたからこそ、ゲームの人気の上昇以外に、コロナ禍の影響はさほど大きくないのではないだろうか。本発表は、そのような疑問をいだきながら、オンライン環境の日常化が進む中、改めてゲーム内とゲーム外の関係を問う。現代ゲームの代表作である『集まれ動物の森』を巡るプレイヤーの実践を手がかりに、サービス化、携帯化、ネットワーク化、そして他メディアとの接続により進んできたゲーム内外の生存圏の融合と隔離を明らかにし、フォーマット、プラットフォーム、インタフェースにおける「遊び」を追う。

 

日高良祐(東京都立大学/ポピュラー音楽研究)

「ライブ演奏を楽しむためのプラットフォームをめぐる変容」

 

 新型コロナウイルスの感染拡大は、ライブ演奏を楽しむための場所に対して大きな変化を強いた。日本ポピュラー音楽学会(JASPM)は調査プロジェクトを立ち上げ、とりわけライブハウスやクラブなど「ハコ」の直面した変容を具体的に明らかにしてきた。そこでの調査成果を踏まえた上で発表者が注目したいのは、ライブ演奏を楽しむためのプラットフォームをめぐる変容である。本発表では、ライブ演奏会場の様子を配信する「流通」の水準と、遠隔でライブ演奏を実践する「制作」の水準に分け、いくつかの事例を紹介したい。
 流通の水準では、ハコがTwitchなど既存の配信プラットフォームを利用しつつ生き残りを模索したのに対し、大手プレイガイドはPia Live StreamやStreaming+などの配信プラットフォーム自体を新しく展開した。同じくコロナ禍に苦しむライブ産業だが、ライブ演奏を楽しむための場所の制御をめぐる争いを見出すこともできる。他方、制作の水準では、Zoomのフォーマットを利用した実験的な同期演奏の試みや、遅延の問題を解決しようとするSYNCROOMの発表など、「集まらない」ライブ演奏の実現が試みられてきた。流通、制作の水準ともに多様な試みがなされてきたが、音楽を取り巻く産業といえども、レコード(録音)、ライブ、そしてITなどの区分に応じて、影響の様相は異なるといえるだろう。
 上記の変容に関する報告をした上で、発表者が考えたいのは「これらの多様な試みは実は新しくないのではないか」という観点である。ライブ映像配信にしろ、遠隔での演奏にしろ、音楽制作・流通の場で(技術的には)コロナ禍以前から行われてきたことである。では何が新しく、そこで注視すべき点は何なのか? あらためて考えてみたい。

科研費助成研究(基盤研究(A))「脱マスメディア時代のポップカルチャー美学に関する基盤研究」

■研究代表者

室井 尚(横浜国立大学)


■研究分担者

 

吉岡 洋(京都大学・こころの未来研究センター)、佐藤 守弘(同志社大学)、吉田 寛(東京大学)、

秋庭 史典(名古屋大学)、ファビアン・カルパントラ(横浜国立大学)

■研究の概要

本研究は、これまで主として社会学、文学研究、歴史学などによって担われてきた現代のポップカルチャー研究を美学・芸術学を基盤とした視点から捉えていこうとするものである。近年、マンガ、アニメ、TVゲーム、ファッション、ポピュラー音楽などのいわゆるポップカルチャー に対する関心が集まっている。だが、それらの文化領域を包括的に捉える理論的な視点や、それぞれの表現ジャンルとしての独自性を抽出し、共通する性質を取り上げようとする美学的・芸術学的な取り組みはこれまでほとんどなされてこなかった。本基盤研究は、ポップカルチャーを20世紀から21世紀にかけての最も突出した「文化事象」として捉え、「商品」という装いの下に隠されているポップカルチャーの文化的潜勢力に対して基盤メディアの変容(「脱マスメディア」)という視点から光を当てようとするものである

◼︎アクセス:

京都市左京区吉田下阿達町46 京都大学稲森財団記念館3階中会議室

http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/access/

◼︎最寄り駅:

京阪電鉄『神宮丸太町駅』下車。川端通を北へ徒歩約5分

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入場無料、要予約 先着順(会場参加は定員(20名)になり次第締め切ります。ご了承ください。)

予約/お問合わせ

E-mail: muroi.labo@gmail.com

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科研費助成研究(基盤研究(A))

「脱マスメディア時代のポップカルチャー美学に関する基盤研究」

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